2025年、福祉業界が直面する待ったなしの現実。なぜ今、DXが”唯一の処方箋”なのか
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日本の福祉・介護業界は今、歴史的な岐路に立たされています。超高齢社会の進展による介護需要の爆発的な増加と、生産年齢人口の減少による深刻な人手不足という、二つの大きな課題に挟まれているからです。厚生労働省の推計によれば、2040年度には約280万人の介護職員が必要とされる一方、現状のままでは約69万人もの人材が不足すると予測されています(※1)。これは、もはや個々の施設の努力だけでは乗り越えられない、構造的な問題です。
この危機的状況を打破する”唯一の処方箋”として、国も強力に推進しているのが、デジタルトランスフォーメーション(DX)です。DXと聞くと、「よくわからない」「うちのような小規模な施設には関係ない」と感じる経営者や現場責任者の方もいらっしゃるかもしれません。しかし、福祉施設におけるDXは、単なるITツールの導入ではありません。テクノロジーを活用して、職員の働き方そのものを変革し、ケアの質を向上させ、利用者の生活をより豊かにするための経営戦略そのものです。
特に、2024年度の介護報酬改定では「生産性向上委員会」の設置が要件化されるなど(※2)、テクノロジー活用はもはや選択肢ではなく、事業継続のための必須条件となりつつあります。この記事では、福祉施設のDXを「何から始めればいいかわからない」という担当者様のために、国内外の最新動向を踏まえつつ、日本市場で実践可能な具体的なステップ、ツール、成功事例を網羅的に解説します。貴施設の未来を創造するための、確かな一歩をここから踏み出しましょう。
※1 出典: 厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」
※2 出典: 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定の主な事項について」
「きつい・汚い・給料が安い」はもう古い。DXがもたらす福祉現場の革命的変化
DXの推進は、福祉施設が抱える根深い課題を解決し、職員、利用者、経営者の三者すべてに大きなメリットをもたらします。具体的にどのような変化が期待できるのか、4つの側面から詳しく見ていきましょう。
メリット1:圧倒的な業務効率化と職員の負担軽減
介護現場は、利用者のケア記録、日誌、申し送り、請求業務など、膨大な量の書類作成と情報共有に追われています。これらを紙ベースで行っている場合、多くの時間が転記やファイリング、情報探しに費やされ、本来最も重要であるはずの利用者と向き合う時間を圧迫しています。
DXツールを導入することで、これらの業務を劇的に効率化できます。
- 記録業務の削減:スマートフォンやタブレットから、場所を選ばずにケア内容をその場で入力。音声入力やICタグ(※)を活用すれば、数タップで記録が完了し、手書きや事業所に戻ってからのPC入力作業が不要になります。
- 情報共有の迅速化:職員間の情報共有がリアルタイムで行えるようになり、申し送りの時間が大幅に短縮。抜け漏れなく正確な情報が伝わることで、チームケアの質も向上します。
- 間接業務の自動化:シフト作成や勤怠管理、介護保険請求といった複雑な事務作業を自動化。手作業によるミスを防ぎ、管理者の負担を大幅に軽減します。
※ICタグ:近距離無線通信技術(NFCなど)を搭載した小型のタグ。スマートフォンなどをかざすだけで情報を読み書きできる。
メリット2:科学的根拠に基づくケアの質の向上
DXは、これまで職員の経験や勘に頼りがちだったケアを、データに基づいた客観的で質の高いものへと進化させます。見守りセンサーやウェアラブルデバイスを導入することで、利用者の睡眠状態、心拍数、活動量といったバイタルデータを24時間自動で収集・記録できます。
これらのデータを分析することで、個々の利用者のわずかな体調変化や生活リズムの乱れを早期に発見し、先回りしたケアを提供することが可能になります。例えば、「夜中に何度も起きている」というデータから、日中の活動量を見直したり、排泄ケアのタイミングを調整したりといった、科学的根拠に基づいたケアプランの最適化が実現します。これにより、利用者のQOL(Quality of Life: 生活の質)向上に直結するだけでなく、職員は精神的な安心感を持ってケアに臨むことができます。
メリット3:職員の定着率向上と人材獲得力の強化
人手不足の解消には、新たな人材の確保と同時に、今いる職員が長く働き続けられる環境を作ることが不可欠です。DXは、この「働きがい」の醸成に大きく貢献します。
業務負担の軽減は、残業時間の削減や有給休暇の取得促進に繋がり、ワークライフバランスを改善します。また、無駄な作業から解放されることで、職員は利用者一人ひとりと向き合う時間が増え、介護という仕事本来のやりがいを再認識できます。「テクノロジーを活用して職員の負担を軽減している」という事実は、求職者に対する強力なアピールポイントとなり、採用競争においても優位に立つことができるでしょう。
メリット4:データに基づいた健全な施設経営
DXは、施設経営の可視化と安定化にも寄与します。各種データを一元管理することで、職員の労働時間、サービスの提供状況、施設の稼働率などをリアルタイムで正確に把握できるようになります。
これらのデータを分析すれば、「どの時間帯に業務負荷が集中しているか」「どのサービスで収益性が高いか」といった経営課題が明確になり、より的確な人員配置やサービス改善、投資判断が可能になります。どんぶり勘定の経営から脱却し、データに基づいた戦略的な施設運営を実現することは、変化の激しい時代を生き抜くための必須条件と言えるでしょう。
【カテゴリー別】今すぐ導入したい!福祉施設向けおすすめDXツール15選
ここでは、日本国内の多くの施設で導入実績があり、現場の課題解決に直結するDXツールを5つのカテゴリーに分けて具体的にご紹介します。自施設の課題と照らし合わせながら、最適なツールを見つけてください。
介護記録・情報共有システム:業務効率化の心臓部
手書きの記録や申し送りをなくし、情報共有を円滑にするための最も基本的なDXツールです。多くの製品が請求業務まで一気通貫で対応しています。
- カイポケ(株式会社エス・エム・エス)
- 特徴:業界トップクラスのシェアを誇るクラウド型ソフト。介護記録から請求、勤怠管理、給与計算、採用支援まで、40以上の機能をワンストップで提供。タブレットアプリの操作性も高く、現場での記録がスムーズ。
- 強み:機能の網羅性とコストパフォーマンスの高さ。経営支援サービスが充実しており、初めてのDX導入でも安心。
- 公式サイト:https://ads.kaipoke.biz/
- ほのぼのNEXT(NDソフトウェア株式会社)
- 特徴:長年の実績と高いシェアを持つ老舗の介護ソフト。オンプレミス型とクラウド型の両方を提供し、施設の規模やセキュリティポリシーに合わせて選択可能。帳票類の自由度が高い点も魅力。
- 強み:安定したシステムと手厚いサポート体制。大規模法人での導入実績が豊富。
- 公式サイト:https://www.ndsoft.jp/product/honobono/
- ワイズマンシステムSP(株式会社ワイズマン)
- 特徴:医療・介護・福祉の分野で総合的なソリューションを提供するワイズマンの主力製品。医療機関との連携機能に強く、地域の多職種連携をスムーズにする。
- 強み:医療連携機能と、法人全体の情報を一元管理できる統合力の高さ。
- 公式サイト:https://www.wiseman.co.jp/
見守りシステム・センサー:夜勤の負担軽減と安全確保の切り札
利用者のプライバシーに配慮しながら、睡眠状態や離床、転倒などのリスクを検知し、職員に通知するシステムです。夜間の巡回業務を大幅に削減し、職員の身体的・精神的負担を軽減します。
- Neos+Care(ネオスケア)(ノーリツプレシジョン株式会社)
- 特徴:ベッド上の利用者の動きを「呼吸」「心拍」レベルで検知する非接触・非拘束型のセンサー。シルエット画像でプライバシーを守りつつ、覚醒、起き上がり、離床といった状態を正確に把握できる。
- 強み:高い検知精度と、介護記録ソフトとの連携による「自動記録」機能。
- 公式サイト:https://neoscare.noritsu-precision.com/
- まもる~の(株式会社エー・アンド・デイ)
- 特徴:ベッドマットレスの下に敷くシート状のセンサーで、利用者の体動(寝返り、呼吸、心拍など)を測定。Wi-Fi経由でナースコールやスマートフォンに通知する。設置が簡単で導入しやすい。
- 強み:導入の手軽さとコストパフォーマンス。既存のナースコール設備と連携できる点も便利。
- 公式サイト:https://www.aandd.co.jp/
インカム・コミュニケーションツール:チームケアを加速させる潤滑油
職員間のリアルタイムな情報共有を可能にし、「言った・言わない」のトラブルを防ぎます。わざわざ事務所に戻ったり、PHSで担当者を探したりする手間をなくします。
- LINE WORKS(ワークスモバイルジャパン株式会社)
- 特徴:多くの人が使い慣れたLINEと同じ操作感で使えるビジネスチャット。トーク機能はもちろん、掲示板、カレンダー、アンケートなど、施設内の情報共有に必要な機能が揃っている。
- 強み:圧倒的な使いやすさで、ITが苦手な職員でもすぐに定着する。既読機能で情報伝達の確実性が向上。
- 公式サイト:https://line.worksmobile.com/jp/
- Buddycom(バディコム)(株式会社サイエンスアーツ)
- 特徴:スマートフォンがインカム(トランシーバー)になるアプリ。複数人での同時会話や、音声のテキスト化、翻訳機能など、介護現場で役立つ機能が豊富。
- 強み:両手がふさがりがちな介護業務中でも、イヤホンマイクを使えばハンズフリーで会話が可能。
- 公式サイト:https://www.buddycom.net/
- Microsoft Teams(日本マイクロソフト株式会社)
- 特徴:チャット、ビデオ会議、ファイル共有など、多彩な機能を統合したコラボレーションツール。WordやExcelとの連携もスムーズ。
- 強み:法人向けのセキュリティ機能が充実。多機能であり、PCでの事務作業が多い職場にも適している。
- 公式サイト:https://www.microsoft.com/ja-jp/microsoft-teams/group-chat-software
勤怠管理・労務管理システム:複雑なシフト作成と給与計算を自動化
介護業界特有の複雑な勤務形態や加算要件に対応し、シフト作成から給与計算までのプロセスを効率化。コンプライアンス遵守にも繋がります。
- ジョブカン勤怠管理(株式会社DONUTS)
- 特徴:多彩な打刻方法(ICカード、指紋認証、LINEなど)と柔軟なシフト管理機能が特徴。変形労働時間制にも対応し、介護業界の複雑な勤務体系にフィットする。
- 強み:機能の豊富さとカスタマイズ性の高さ。シリーズで給与計算や労務管理も展開しており、連携がスムーズ。
- 公式サイト:https://jobcan.ne.jp/kintai/
- KING OF TIME(株式会社ヒューマンテクノロジーズ)
- 特徴:クラウド型勤怠管理システム市場でトップシェアを誇る。リアルタイムでの労働時間管理やアラート機能により、長時間労働の抑制に貢献する。
- 強み:高い信頼性と安定性。多くの給与ソフトと連携可能で、導入がスムーズ。
- 公式サイト:https://www.kingoftime.jp/
- jinjer勤怠(jinjer株式会社)
- 特徴:勤怠管理だけでなく、人事管理、経費精算など、バックオフィス業務を一つのプラットフォームで管理できる。従業員のコンディション管理機能など、ユニークな機能も搭載。
- 強み:バラバラなシステムを統合し、データ連携の手間を削減できる。UIが直感的でわかりやすい。
- 公式サイト:https://hcm-jinjer.com/
その他(送迎・服薬支援・リハビリ支援):特定業務をピンポイントで効率化
施設の特定の課題に特化したツールも数多く存在します。これらを組み合わせることで、さらなる業務効率化が可能です。
- 送迎管理システム:最適ルートを自動作成(例:各種介護ソフトのオプション機能)
- 特徴:利用者の住所や希望時間、車両情報を登録するだけで、最適な送迎ルートとスケジュールを自動で作成。新人ドライバーでも効率的な送迎が可能になる。
- 強み:送迎計画作成にかかる時間を90%以上削減できるケースも。ガソリン代の節約にも繋がる。
- 服薬支援システム:誤薬防止と記録の手間を削減
- 特徴:利用者の服薬情報を電子化し、バーコードなどで照合することで、誤薬を防止する。服薬実績は自動で記録されるため、転記の手間が不要。
- 強み:介護現場で最も注意を要する誤薬のリスクを大幅に低減し、職員の心理的負担を軽減する。
- リハビリ支援ソフト(例:リハプラン)
- 特徴:デイサービスなどの機能訓練業務を支援。アセスメントから計画書作成、訓練の実施記録までを一元管理し、書類作成の負担を軽減する。
- 強み:個別機能訓練加算などの算定を強力にサポート。質の高いリハビリテーションの提供に繋がる。
- 公式サイト:https://rehaplan.jp/
【国内事例に学ぶ】DXで成功を収めた福祉施設のストーリー
DXツールを導入することで、現場はどのように変わるのでしょうか。ここでは、実際にDXで大きな成果を上げた国内の福祉施設の事例をご紹介します。
事例1:見守りシステム導入で夜勤職員を2名削減、手厚い個別ケアを実現(特別養護老人ホーム)
ある特別養護老人ホームでは、夜間の頻繁な巡回による職員の疲弊と、それにも関わらず発生する転倒事故が課題でした。そこで、全居室に見守りシステム「Neos+Care」を導入。
- 導入前:4名の夜勤職員が2時間おきに全利用者の居室を巡回。心身ともに負担が大きく、ヒヤリハットも頻発していた。
– 導入後:利用者の状態がスタッフルームのモニターでリアルタイムに把握可能に。本当にケアが必要な時にだけ訪室すればよくなり、夜間の巡回業務がほぼゼロになった。結果として、夜勤職員を4名から2名に削減することに成功。削減できた人員は日中の手厚いケアに配置転換し、利用者と向き合う時間が増加。職員の精神的負担も軽減され、離職率の低下にも繋がった。(参考:Neos+Care 導入事例)
事例2:記録・請求ソフトの一新で残業時間を月間80時間削減(デイサービスセンター)
職員数20名のあるデイサービスでは、手書きのサービス記録と、旧式の請求ソフトへの二重入力が常態化し、月末には多くの職員が残業していました。そこで、タブレットで記録から請求まで完結するクラウド型介護ソフト「カイポケ」を導入しました。
- 導入前:送迎後に事務所でまとめて記録を記入。月末には請求業務が集中し、管理者や事務員の残業が月平均20時間を超えていた。
– 導入後:送迎の車内や利用者の自宅で、サービスの合間にタブレットで記録が完了。事務所に戻ってからの作業がほぼなくなり、情報共有もリアルタイムに。請求業務もボタン一つで完了するため、法人全体の残業時間を月間80時間以上削減できた。浮いた時間で新たなレクリエーションの企画や研修の時間を確保できるようになり、サービスの質も向上した。
事例3:インカムアプリ導入で職員間の連携が密になり、サービスの質が向上(訪問介護事業所)
複数のヘルパーが地域を飛び回る訪問介護事業所では、利用者情報の伝達遅れや、緊急時の対応に課題を抱えていました。スマートフォンで使えるインカムアプリ「Buddycom」を導入し、コミュニケーションのあり方を変革しました。
- 導入前:緊急時の連絡はサービス提供責任者(サ責)の携帯電話に集中。他のヘルパーへの情報共有は事務所に戻ってから行われ、対応の遅れや伝達ミスが発生していた。
– 導入後:ヘルパー全員がグループ通話でリアルタイムに情報を共有。利用者の急な体調変化なども即座に全員に伝わり、サ責や他のヘルパーが迅速にサポートに入れる体制ができた。結果、サービスの質と利用者の安心感が向上し、ヘルパーの孤立感も解消された。
【海外トレンド】日本の福祉DXが目指すべき未来とは?―AIによる「予測・予防介護」の時代へ
目を海外に転じると、さらに進んだDXの形が見えてきます。特に欧米では、AI(人工知能)を活用して「問題が起きてから対処する」介護から、「問題を予測し、未然に防ぐ」介護へとシフトが進んでいます。
イギリスで急成長する在宅ケア企業「Cera」は、AIを用いて利用者の健康データを分析し、数日以内に入院や転倒のリスクが高まることを予測するシステムを開発・運用しています。この予測に基づき、看護師が早期に介入することで、実際に入院率を大幅に減少させることに成功しています(
また、アメリカの「ElliQ」は、高齢者向けのコミュニケーションロボットです。単なる話し相手になるだけでなく、日々の会話や行動パターンから認知機能の変化や気分の落ち込みを検知し、家族やケアマネージャーにアラートを送る機能を備えています。
これらの事例が示すのは、DXの最終的なゴールが単なる業務効率化ではなく、テクノロジーの力で一人ひとりの高齢者の健康寿命を延ばし、自立した生活を長く支える「予防介護(Preventive Care)」の実現にあるということです。日本の福祉施設も、まずは日々の業務効率化から着手し、そこで蓄積されたデータを活用して、将来的にはこのような質の高いケアを目指していくことが重要です。
失敗しないためのDX導入ロードマップ【5ステップで完全解説】
「よし、うちもDXを始めよう!」と思っても、やみくもにツールを導入しては失敗します。現場の抵抗に遭ったり、使われないまま放置されたりするケースは少なくありません。ここでは、DX導入を成功に導くための具体的な5つのステップを解説します。
ステップ1:現状の課題分析と目的の明確化
まず最初に行うべきは、自施設の課題を徹底的に洗い出すことです。「誰が」「どの業務に」「どれくらいの時間を使っているか」を可視化しましょう。職員へのヒアリングやアンケート、業務フローの棚卸しなどが有効です。
その上で、「なぜDXを導入するのか」という目的を明確にします。「残業時間を月20%削減する」「夜勤職員の負担を軽減し、精神的な安心感を醸成する」「記録業務の時間を半減させ、利用者との対話時間を増やす」など、具体的で測定可能な目標(KPI)を設定することが重要です。
ステップ2:経営層と現場の合意形成
DXはトップダウンだけでは進みません。経営層が強いリーダーシップを発揮すると同時に、現場の職員を巻き込み、DXの必要性や導入後のメリットを丁寧に説明し、理解と協力を得ることが不可欠です。
各部署から代表者を集めた「DX推進チーム」を立ち上げることをお勧めします。現場の意見を吸い上げながら、自分たちで導入するツールを選定するプロセスを経ることで、職員の「やらされ感」をなくし、主体的な取り組みを促すことができます。
ステップ3:スモールスタートでのツール選定と試行(PoC)
いきなり全社的に高額なシステムを導入するのはリスクが大きすぎます。まずは、ステップ1で特定した課題のうち、最も効果が出やすく、かつ現場の負担が少ない領域から、小規模に試してみる「スモールスタート」が鉄則です。
例えば、「特定のフロアだけで見守りシステムを試してみる」「訪問介護チームだけで情報共有ツールを使ってみる」といった形です。複数のツールの無料トライアルなどを活用し、現場の職員に実際に使ってもらい、操作性や効果を比較検討(PoC: Proof of Concept/概念実証)しましょう。この段階で出た課題や要望をベンダーにフィードバックし、自施設に最適なツールを見極めます。
ステップ4:本格導入と運用ルールの策定
試行で効果が確認できたら、いよいよ本格導入です。導入時には、全職員を対象とした研修会を必ず実施し、操作方法だけでなく、導入目的や運用ルールを丁寧に説明します。
「記録は必ずケア提供後5分以内に入力する」「申し送りはチャットツールに集約し、口頭での伝達は原則禁止する」など、具体的なルールを明文化し、定着させることが重要です。また、ITに不慣れな職員への個別フォロー体制も整えておきましょう。
ステップ5:効果測定と継続的な改善(PDCA)
DXは導入して終わりではありません。定期的に効果を測定し、改善を続けていくことが成功の鍵です。ステップ1で設定したKPI(残業時間、ヒヤリハット件数など)がどの程度改善したかをデータで評価します。
また、職員からツールの使い勝手や改善要望などをヒアリングする場を設け、運用ルールを見直したり、ベンダーに追加機能の開発を依頼したりといった改善活動(PDCAサイクル)を回し続けましょう。これにより、DXの効果を最大化していくことができます。
なお、DX導入にはコストがかかりますが、国や自治体は様々な補助金制度を用意しています。厚生労働省の「介護テクノロジー導入支援事業」などを活用すれば、導入費用の一部補助を受けることが可能です。必ず自社の管轄の自治体窓口に確認してみましょう。
まとめ:未来の福祉を創造するために、今すぐDXへの第一歩を
本記事では、福祉施設におけるDXの必要性から、具体的なツール、成功事例、導入のステップまで、網羅的に解説してきました。
改めて強調したいのは、DXは単なるコスト削減や業務効率化のツールではないということです。DXの本質は、テクノロジーの力で職員を単純作業から解放し、人にしかできない、温かみのある専門的なケアに集中できる環境を創り出すことにあります。それは、職員の働きがいを高め、利用者のQOLを向上させ、そして持続可能な施設経営を実現する、未来への投資です。
人手不足の波は、もうすぐそこまで来ています。しかし、悲観する必要はありません。DXという強力な武器を手にすれば、この困難な時代を乗り越え、地域から選ばれる質の高い施設へと進化していくことが可能です。
何から手をつけて良いかわからない、自施設に最適なツールがわからないという場合は、ぜひ専門家の知見を頼ってください。この記事が、貴施設が未来へ向けて新たな一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。
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